QDBMにはJava言語用のAPIがある。QDBMの基本APIと拡張APIと上級APIの関数群をJavaのクラス機構を用いてカプセル化し、かつスレッドセーフにしたものである。C言語のAPIをJava Native Interfaceを介して呼び出すように実装されている。
基本APIはファイルを用いてハッシュデータベースを実現する。クラス `Depot' のコンストラクタによってデータベースファイルが開かれる。データベースを閉じるにはメソッド `close' を呼ぶ。ファイナライザでもデータベースを閉じようとするが、それに頼ってはならない。メソッド `put' はレコードを追加するために用いる。メソッド `out' はレコードを削除するために用いる。メソッド `get' はレコードを検索するために用いる。その他にも、C言語の基本APIとほぼ同じ操作を利用することができる。各メソッドはエラー時にクラス `DepotException' のインスタンスを投げる。
拡張APIはディレクトリと複数のファイルを用いてハッシュデータベースを実現する。クラス `Curia' のコンストラクタによってデータベースディレクトリが開かれる。データベースを閉じるにはメソッド `close' を呼ぶ。ファイナライザでもデータベースを閉じようとするが、それに頼ってはならない。メソッド `put' はレコードを追加するために用いる。メソッド `out' はレコードを削除するために用いる。メソッド `get' はレコードを検索するために用いる。その他にも、C言語の拡張APIとほぼ同じ操作を利用することができる。各メソッドはエラー時にクラス `CuriaException' のインスタンスを投げる。
上級APIはファイルを用いてB+木データベースを実現する。クラス `Villa' のコンストラクタによってデータベースファイルが開かれる。データベースを閉じるにはメソッド `close' を呼ぶ。ファイナライザでもデータベースを閉じようとするが、それに頼ってはならない。メソッド `put' はレコードを追加するために用いる。メソッド `out' はレコードを削除するために用いる。メソッド `get' はレコードを検索するために用いる。その他にも、C言語の上級APIとほぼ同じ操作を利用することができる。各メソッドはエラー時にクラス `VillaException' のインスタンスを投げる。
`Depot' と `Curia' と `Villa' はインタフェース `ADBM' を実装する。このインタフェースはUNIX標準のDBMと同様の機能を持つデータベースマネージャを抽象化したものである。各メソッドはエラー時にクラス `DBMException' のインスタンスを投げる。四つのAPIから適切なものを選択する際には、実行効率を重視するなら `Depot' を、スケーラビリティを重視するなら `Curia' を、順序に基づく参照が必要なら `Villa' を、エレガンスと保守性を重視するなら `ADBM' を選ぶべきであろう。データベースファイルは各APIの間で互換性がない。
各クラスはパッケージ `qdbm' に含まれ、アプリケーションのソースファイルでそれをインポートすることができる。
CのAPIは、スレッド間でデータベースハンドルを共有しない限りはスレッドセーフである。JavaのAPIでは、複数のスレッドが同じハンドルにアクセスしてもスレッドセーフである。
`put' で既存のレコードの上書きがキャンセルされた際や `get' で存在しないレコードが検索された際には例外によって操作の失敗が通知されるが、それが鬱陶しい場合は `silent' フラグを真にするとよい。その場合は失敗が戻り値によって通知される。
APIの詳細に関しては、サブディレクトリ `japidoc' の文書を参照すること。
JDKの1.2以降のバージョンがインストールされ、環境変数 `JAVA_HOME' が適切に設定され、QDBMが `/usr/local' 以下にインストールされていることが必要である。
インストール作業は、サブディレクトリ `java' をカレントディレクトリにして行う。
cd java
ビルド環境を設定する。JavaのコンパイルにGCCを用いる場合、`--with-gcj' オプションを付ける。
./configure
プログラムをビルドする。
make
プログラムの自己診断テストを行う。
make check
プログラムをインストールする。作業は `root' ユーザで行う。
make install
一連の作業が終ると、ネイティブライブラリ `libjqdbm.so' 等とJARファイル `qdbm.jar' が `/usr/local/lib' にインストールされる。
アンインストールするには、`./configure' をした後の状態で以下のコマンドを実行する。作業は `root' ユーザで行う。
make uninstall
Windows(Cygwin)にインストールする場合、以下の手順に従う。
ビルド環境を設定する。
./configure
プログラムをビルドする。
make win
プログラムの自己診断テストを行う。
make check-win
プログラムをインストールする。なお、アンインストールする場合は `make uninstall-win' とする。
make install-win
Windowsでは、インポートライブラリ `libjqdbm.dll.a' が生成され、さらにダイナミックリンクライブラリ `jqdbm.dll' が生成される。`jqdbm.dll' は `/usr/local/bin' にインストールされる。
Cygwin環境でMinGWを用いてビルドするには、`make win' の代わりに `make mingw' を用いる。CygwinのUNIXエミュレーション層を用いる場合、生成されるプログラムは `cygwin1.dll' に依存したものになる。MinGWによってWin32のネイティブDLLとリンクさせればこの問題を回避できる。
Mac OS X(Darwin)にインストールする場合、以下の手順に従う。
ビルド環境を設定する。
./configure
プログラムをビルドする。
make mac
プログラムの自己診断テストを行う。
make check-mac
プログラムをインストールする。なお、アンインストールする場合は `make uninstall-mac' とする。
make install-mac
Mac OS Xでは、`libjqdbm.so' 等の代わりに `libjqdbm.dylib' や `libjqdbm.jnilib' 等が生成される。
HP-UXにインストールする場合、以下の手順に従う。
ビルド環境を設定する。
./configure
プログラムをビルドする。
make hpux
プログラムの自己診断テストを行う。
make check-hpux
プログラムをインストールする。なお、アンインストールする場合は `make uninstall-hpux' とする。
make install-hpux
HP-UXでは、`libjqdbm.so' 等の代わりに `libjqdbm.sl' が生成される。
QDBMを利用したJavaプログラムをビルドしたり、それを実行したりするには、環境変数を設定しておく必要がある。
クラスパスを設定する。環境変数 `CLASSPATH' の値がJARファイルのフルパスを含むようにする。
CLASSPATH=$CLASSPATH:/usr/local/lib/qdbm.jar export CLASSPATH
ライブラリパスを設定する。環境変数 `LD_LIBRARY_PATH' の値がライブラリのあるディレクトリを含むようにする。なお、Windowsではこの設定は不要であり、Mac OS Xでは環境変数 `DYLD_LIBRARY_PATH' を用い、HP-UXでは環境変数 `SHLIB_PATH' を用いる。
LD_LIBRARY_PATH=$LD_LIBRARY_PATH:/usr/local/lib export LD_LIBRARY_PATH
名前と対応させて電話番号を格納し、それを検索するアプリケーションのサンプルコードを以下に示す。
import qdbm.*;
public class Sample {
static final String NAME = "mikio";
static final String NUMBER = "000-1234-5678";
static final String DBNAME = "book";
public static void main(String[] args){
Depot depot = null;
try {
// データベースを開く
depot = new Depot(DBNAME, Depot.OWRITER | Depot.OCREAT, -1);
// レコードを格納する
depot.put(NAME.getBytes(), NUMBER.getBytes());
// レコードを取得する
byte[] res = depot.get(NAME.getBytes());
System.out.println("Name: " + NAME);
System.out.println("Number: " + new String(res));
} catch(DepotException e){
e.printStackTrace();
} finally {
// データベースを閉じる
if(depot != null){
try {
depot.close();
} catch(DepotException e){
e.printStackTrace();
}
}
}
}
}
上記の例を `ADBM' クラスを用いて書き直した例を以下に示す。
import qdbm.*;
public class Sample {
static final String NAME = "mikio";
static final String NUMBER = "000-1234-5678";
static final String DBNAME = "book";
public static void main(String[] args){
ADBM dbm = null;
try {
// データベースを開く
dbm = new Depot(DBNAME, Depot.OWRITER | Depot.OCREAT, -1);
// レコードを格納する
dbm.store(NAME.getBytes(), NUMBER.getBytes(), true);
// レコードを取得する
byte[] res = dbm.fetch(NAME.getBytes());
System.out.println("Name: " + NAME);
System.out.println("Number: " + new String(res));
} catch(DBMException e){
e.printStackTrace();
} finally {
// データベースを閉じる
if(dbm != null){
try {
dbm.close();
} catch(DBMException e){
e.printStackTrace();
}
}
}
}
}
`Villa' クラスを用いて文字列の前方一致検索を行う例を以下に示す。
import qdbm.*;
public class Sample {
static final String DBNAME = "words";
static final String PREFIX = "apple";
public static void main(String[] args){
Villa villa = null;
try {
// データベースを開く
villa = new Villa(DBNAME, Villa.OWRITER | Villa.OCREAT, Villa.CMPOBJ);
// レコードを格納する
villa.putobj("applet", "little application", Villa.DDUP);
villa.putobj("aurora", "polar wonderwork", Villa.DDUP);
villa.putobj("apple", "delicious fruit", Villa.DDUP);
villa.putobj("amigo", "good friend", Villa.DDUP);
villa.putobj("apple", "big city", Villa.DDUP);
try {
// カーソルを候補の先頭に置く
villa.curjumpobj(PREFIX, Villa.JFORWARD);
// カーソルを走査する
for(;;){
String key = (String)villa.curkeyobj();
if(!key.startsWith(PREFIX)) break;
String val = (String)villa.curvalobj();
System.out.println(key + ": " + val);
villa.curnext();
}
} catch(VillaException e){
if(e.ecode != Villa.ENOITEM) throw e;
}
} catch(VillaException e){
e.printStackTrace();
} finally {
// データベースを閉じる
if(villa != null){
try {
villa.close();
} catch(VillaException e){
e.printStackTrace();
}
}
}
}
}
Java用APIを利用したプログラムをビルドするには、クラスパスを適切に設定した上で、`javac' を実行する。例えば、`Sample.java' から `Sample.class' を作るには、以下のようにビルドを行う。
javac Sample.java
ひとつのプロセスで複数のデータベースファイルを同時に利用することは可能であるが、同じデータベースファイルの複数のハンドルを利用してはならない。ひとつのデータベースを複数のスレッドで利用する場合には、メインスレッドで生成したハンドルを他のスレッドに渡せばよい。
オブジェクトを直列化してデータベースに格納する手法は便利であるが、オブジェクトの直列化は時間的および空間的に効率がよくない。明示的にバイト配列に変換できるならば、なるべくバイト配列を格納した方がよい。また、ハッシュデータベースのキーの比較はオブジェクトに対しても直列化した状態で行われる。すなわち、二つのオブジェクトが直列化した状態で完全に一致しない場合は、たとえ `equals' の値が真であっても、一致したキーとはみなされない。B+木データベースでは比較関数を適切に指定できるのでこの問題はない。